仙台のコワーキングスペース「ノラヤ」戦う管理人

仙台市青葉区、地下鉄北四番丁から徒歩8分のコワーキングスペース「ノラヤ」を運営している人の赤裸々なブログ。

「コワーキングスペース/シェアオフィス空間による協創型ワークプレイスの出現」を読んだ

コワーキングスペースについての研究成果をまとめた本があると知り、買って読んでみました。 

 コワーキングスペースやシェアオフィス等を総称したものを「共同型ワークプレイス」として、それ全般について調査したものです。不動産活用の立場からの研究なので、ノラヤ的にはピンとこない部分もあるのですが、立地の特徴とか、匿名だけどだいたいどこだかわかるコワーキングスペースの月額収益構造(つまりおさいふ事情)事例は、なかなか興味深いものでした。

 

なるほど、と思ったのは、コワーキングの3段階プロセスモデル(p.14)。

  • 段階1:共存・共有(common)
  • 段階2:共信(communication)
  • 段階3:協創・協働(collaboration)

これ非常に納得できるもので、ありがちなのが段階1、共存・共有すなわち場所だけ作って、使ってもらっても、段階3の一緒になにか生み出して仕事するレベルにはひととびにいくわけではなく、そのうち消えてしまうと。

コワーキングスペースに行って名刺配って「なにかお仕事できないかな〜僕を活用してくださいよ〜」と、段階3に行きたいアピールをしたって、その人が段階2の共信、その場の信頼を得る存在にならないと進めないわけです。

行ったって役にたたないとよく揶揄される異業種交流会も、段階1だけの場ですよね。

段階1のスペースは、ぶっちゃけお金さえあれば誰でも作れます。

問題は段階2をどのように可能にしていくか。共信にcommunicationって書いてるけど、単なる会話やり取りだけでなく、信頼を軸とした安心の伴う関係が築けないと協働まで行くのは難しいでしょう。

クラウドソーシングとコワーキングスペースでの協業は対極にあるって昔誰かが言ってたんだけど、それは対面の信頼に重きをおくコワーキングと、ネットで見れる具体的実績と技術が判断材料のクラウドソーシング、の対比ということだと思います。

 

さてそれをふまえて、面白いなぁと思ったのは「協創分人」という概念です(p.63)。

個人(individual)のinを取ったdividualが分人、個人の中にあるいろんな顔。それが「協創分人」となると、どういう状態かというと

「協創型ワークプレイス(Collaborative Innovation Workplace)」における協創者たちは、多様な役割を担い、その場ごとに顔を持ち、分人化した相互がコラボレーションすることで、価値創造に取り組んでいると考えられる。

そこで、単なる「分人(individual)」ではなく、いったん分解した個人が個々の顔で、ふたたび協働・競争するので、筆者はこれを「協働分人」と呼ぶ。また、これらの働きは、個人個人の潜在的な能力を開花させ、イノベーションを生み出す「協創型ワークプレイス(Collaborative Innovation Workplace)」の機能であることを明らかとした。

(p.63より引用)

ちなみに「協創型ワークプレイス(Collaborative Innovation Workplace)」とは、前述の段階3まで達成できているワークプレイスを、直前のページでこのように定義しています。

引用した箇所では難しく書いてますけど、はしょって言うと、コワーキングスペースでは必ずしも本業の顔だけ生きるんではなく、いろんな自分の隠れた得意なところが明らかになって、それが誰かの役に立つ。その状態が協働分人で、それがコワーキングスペースで起きる面白いところだってことです。(かなり意訳……)

これはまさにノラヤをやっている私が実感していることで、ノラヤに来る人は「何をやっている人なの?」「何が本業なの?」という人が多いです。いろいろやってる人が多いし、私自身もいろいろやる人です。なので「利用者の職業は何が多いですか」と聞かれると、困ってしまいます。

これは、そういう人がノラヤに集まるのだと思っていたけど、もしかすると、ノラヤがそういう個人を分人化させる場所だってことですかね?

普通に働いていると「個人」は「プログラマー」のように一個の肩書きしか見えませんよね。それなのにコワーキングスペースだと「こっちも得意ですよね?」と、「分人」がそれぞれ生きたりする。

「こっちも得意ですよね?」というやりとりが生まれるためにはやはり段階2の信頼を伴うコミュニケーションができてないといけない。段階1で表面的にしか知らないなら、名刺に印刷された職業の「個人」でしか、知り得ない。

となると、コワーキングスペース運営者が考えなきゃいけないのは段階2、信頼を軸とした安心してコミュニケーションが取れる関係をいかに醸成してくか。ですね。

ノラヤをオープンしてもうすぐ3年になろうとしていますが、「ダメ人間のためのコワーキングスペース」「ちょっと外れた人が集まる」などと言っていながら、やがていろんな人が来るようになってきたので、最近はちょっと考えてます。信頼できない人はフィルタリングしているつもりです。イベントも、あやしいものはしないようにしてます。サイエンスを1つの軸にしているのも信頼性向上になってるかも。

安心して来れるコワーキングスペースというのは、基本中の基本かもしれないけど、大事にしたいところです。

 

さて、こういう、コワーキングスペースの研究ってけっこうされているし研究成果もそれなりに海外も含め蓄積されていると思われるのに、その成果が見られるチャンスってあまりない。研究成果は運営に生かしたいのに。こうして書籍になるのは珍しいです。それとも、出ているのに私が見つけられてないのかな?

知ってたら教えてください!